価値観を変えた、メンヘラビッチちゃんとの出会い①
あれは大学に入学して、数か月がたった春。
学部内でできた友達は、身体測定の時に前後になった男子一人だけだった。
その友達も、僕と同じく徐々に学校に来なくなっていた。
初めのころは、「今日来てる?」「ごめん、来てない」などのやり取りがあったが、すれ違うことが多かったので、いつの間にかそんなやり取りはなくなってしまっていた。
つまり、僕はぼっちで授業を受けていたのである。
経済学部の人数は1000人。300人程度がひしめく教室で、誰とも話さず過ごすことはあまりに辛い。
僕は別に一人が嫌いなわけではない。嫌いだったら引きこもりはたぶん続けられない。ただ、周囲がこれ見よがしに楽しそうにしているなかで一人でいることはこれほどになく惨めだった。
学部の人数がそれだけ多いと、もはやクラスメイトのような感覚は一切ない。
電車で乗り合わせる他人と大差ないのだ。
いまだに思うけどなんでみんなあんな友達いるんだ。。。
入学前のTwitterでの工作とか、新歓とか、サークルとか。。。
そんなことを器用にこなさないと友達すらできない空間だというのか。
僕は病んでいた。
通学に往復3時間ほどをかけ、誰とも話さず、つまらない講義を聞くだけの大学生活。
身の程に合わない大金をかけて、いったいなんの意味があるのだろう、と。
テストが迫ってきたある日、ぼっちで講義に臨んだのだが、隣にいる女の子もぼっちであることに気付いた。しかも結構かわいい雰囲気。
入学から数か月。テストと夏が迫ってきている時期に、ぼっち、しかも女の子でぼっちというのはかなり珍しいのだった。
僕は何を血迷ったか、その女の子に声をかけた。
「あのぉ、すみません、先週の講義に出られずノートがないのですが、見せていただけませんか?」
と、いかにもキモヲタ風に。
ちなみに、私立経済学部の正解はたぶんこうだ。
「先週ノートとってないねんけどさ、見せてくれへん?www」
うそ、なぜか軽薄な連中も最初は敬語を使う謎ルールがあるような気がする。
とにかく僕は、同じ学部の女の子に話しかけることなんてなかったので、どういう話し方をしたらいいのかわからなかったのである。
それでもその女の子は
「あ、うん、いいよ」
と言ってノートを見せてくれた。
僕はとりあえず、見せてくれたページをパシャパシャと写真に収め、礼を言いノートを返した。
そして、授業が始まってから、不埒な僕はずっとこんなことを考えていた。
「あれ、隣の子ぼっちだし、仲良くなれんじゃね・・・?しかも結構かわいかった気がするし・・・連絡先聞きたいなぁ・・・」
授業中なので隣をあからさまに確認することも話しかけることもできずにいた。
隣が気になって授業の内容は頭に入ってこない。
そして、授業が終わってから、僕はまたもあろうことか、本当に連絡先を聞いてしまったのである。
「あ、あのぉ、もしよかったら、僕、ほら、経済に友達いなくて、なんか情報とか聞ける人いないので、よかったら連絡先を教えてもらいたいのですが・・・」
・・・キモすぎる。
これでメガネをかけているのだからキモヲタ確定である。
女の子もさぞかしびっくりしただろう。
それでも、
「あ、うん、いいよ」とLINEを交換してくれた。
さらに、「字汚いから、わからんところあったらまた言ってな」と言うのである。
天使だろうか。
こうして書くとキモヲタの妄想のようだが、決してそうではない。
過ぎ去っていく膨大な日々のたった1日くらい、こんなこともあるのだ。
舞い上がった僕は、去り際に「じゃあね」とか「バイバイ」とでも言えばよかったのだ。
ところが普通の振る舞いというのを忘れていたのか、謎の緊張なのかぼくはこう言った。
「ではさらば!」
・・・気持ち悪すぎる。
彼女ものちに「やべーやつ来たなと思った」と言っていた。
その後、彼女は僕の数少ない大学の友達になり、そして僕の価値観は大きく変えられてしまうのである。
続く